SIMカードをインスタ映えさせてみたら、大切なものが見えてきた
SIMカードは果たしてインスタ映えするのか? その結末にご期待ください。
「SIM × インスタ映え」が今回のテーマ
こんにちは。とあるWeb制作会社でエディターとして働いているぶっちゃんです。
実は僕、先ほど上司に「 "あるもの" を使ってインスタにあげる写真を撮ってきてくれ」という依頼をされてしまい、頭を悩ませています。
その"あるもの"とは......
SIMカードを使ったインスタ映えする写真って正直、無理ゲーじゃないですか? だって、SIMカード自体がオシャレなわけじゃないんですよ?
うーん、でもなんとかSIMカードの特徴をつかんで写真を撮らなきゃ......。
そもそもSIMカードは通常スマホの中に入っているものなので、見かける機会もない。
「非日常」がキーワードかも?
それからSIMカード最大の特徴って、ものすごく「小さい」ということですよね。小さい......小さい......小さい......!?!?!?
閃いたぞ!
オシャレで非日常で小さくてインスタ映えするものと言ったら、"あれ" があるじゃないか!
ある方のアトリエへ
僕は意気揚々と、ある人の場所を訪ねることにしたのでした。僕が訪れたのは、オシャレで非日常で小さくてインスタ映えするものをつくっている方のアトリエ。
早速インターフォンを押してみます。
ピンポ~ン!
出てきたのは、若い男性。この方こそ、僕が探し求めていた救世主!
さっそく、上司からの無茶な指令を遂行するお手伝いをお願いすることに。
師匠! このSIMカードをインスタ映えさせていただけないでしょうか!?
指の第一関節よりもはるかに小さいSIMカードを見せながら、必死にお願いする僕。
僕の指先をじっと見つめる師匠。
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数分間の沈黙が流れたあと、師匠が口を開きました。「よし、ついてこい! これを使えば解決だ!!!!!」
やった~!!!
......というわけで、説明しよう!
師匠ことMozu氏は、ジオラマアニメーター。
ミニチュアをすべて手作りしており、小さいながらも精巧でリアルな世界観を創造している。
ツイッターフォロワー7.2万人、インスタグラムフォロワー8千人(2018年8月現在)とSNS上でのファンも多く、最近ではテレビへの出演も増えている。
著作に『MOZU 超絶精密ジオラマワーク』(玄光社)がある。
Mozu氏のInstagram
さっそく、師匠に「インスタ映え」の教えを乞うことに。ずらり並べられたミニチュアはすべて師匠による手作り。
椅子や本棚などの比較的大きなものから、ペンやゴミ箱の中のゴミまでがリアルに再現されている。
▲タンスの引き出しは、こんなに小さいのに開閉することもできる
既製品のミニチュアを一切使わないところにこだわりがあるため、適切な質感を表現できる素材を常に探しているのだとか。
師匠にかかれば、SIMカードのインスタ映え写真も難なく達成できそうだ!
師匠がつくったジオラマの部屋に、ミニチュアをひとつひとつ丁寧に納めていきます。これは根気のいる作業になりそう......。
でも、これも、SIMカードのインスタ映えのため。
最初はアイテムを渡しているだけでしたが、作業を少しでも早く進めるために、僕もアイテムを直接ジオラマの中に設置していくことに。しかし......
「違う、その紙袋はここに置くんだ!」
「段ボールはそこじゃない!」
「貯金箱は机の近くの本棚に置く!」
「ダメだ! 全部やり直しだ!!!!!」
せっかく師匠の役に立とうと思ったのにトホホな展開......。襟を正して背筋を伸ばし、師匠のアドバイスを聞くことにします。
「いいか?見せたいものがあるからと言って、それが目立つようにしてはいけないんだ。見せたいものをさりげなく見せて、気づいた人に感動を与える、それが大事なんだ。あとは窓から差し込む光も撮影のときには重要で......」
確かにSIMカードをドーンと並べるだけでは、インスタ映えにはほど遠いかも。さすがは師匠。やはり弟子入りしてよかった! 熱のこもった師匠のありがたいお話はまだまだ続きます。
「それから、モノは積み上げて、ゴミがあるならある程度放っておく。本棚にぎっしり本を入れず、余白をつくるようにする。このくらいの適当さが逆にリアルな世界観を体現するうえで重要なことなんだ。あぁ、あとは人の目の高さに合わせて設置するようにしてもリアルさが増すよ。展示会のときに観に来てくれた人がそういう細部へのこだわりに気づいてくれて驚いてくれるのが僕にとって一番うれしいことなんだ。なんてったって僕の最大の目標は、見てくれている人を驚かすことだからね。今はこうしてミニチュアを見てくれている人が増えているけれど、これからはジオラマを使ったアニメーターの仕事も増やしていきたいと思ってて、ミニチュア制作と並行してアニメーションづくりも進めてる。今作っているアニメーションっていうのは、僕のオリジナルキャラクター・MARUくんが登場するものなんだけど......」
と、白熱しすぎてやや脱線した気がしなくもありません。
しかし、これだけのリアルで精巧な世界をつくるには、やはりこれくらいのこだわりを持つべきなんですよね。
そうして2人で作業すること半日......。
感情を露わにしない冷静な師匠もかなり満足そう。
この作品は「友達の部屋」という作品で、師匠が理想とする部屋を再現したものなんだとか。
視線を低くすると、本当に友達の部屋にお邪魔したような気持ちに。
よほど気に入ったのか、黙々と記念撮影をする師匠。
弟子の僕としても達成感でいっぱいです!
しかし、僕はふと思ったのです。
ところで、SIMをインスタ映えさせたいのですが、SIMカードはいつ登場するんですか?
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まさか、ジオラマづくりを手伝わせたかっただけですか? こんなに時間をかけておいて?
SIMカードをインスタ映えさせる写真なんて撮れなかったじゃないですか!
引き留められたって僕は帰りますからね。だって僕はこれから自力でSIMカードをインスタ映えさせなくてはいけないんですから。
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数日後......
......と、憤って帰ってきてしまったものの、僕が1人でSIMカードをインスタ映えさせられるはずもありません。
そろそろ上司から呼び出しがかかるころ。あ~あ。怒られるんだろうなぁ......。
ピロリ~ン!
そんなことを考えていたら、スマホが震えました。いよいよ雷が落ちる頃です。恐る恐るスマホを開くと...
メッセージの送り主は上司ではなく、師匠。
送られてきたリンクに飛ぶと、インスタに師匠のオリジナルキャラクター "MARU君" と「Sorry......」の文字が。
いまさら、謝られたって......ん?
これは......まさか......!!!
あぁ、師匠が僕に教えてくれたことって、こういうことだったんですね......。ジオラマを組み立てていたときに師匠が言っていた言葉が、僕の脳裏をよぎった。
感動に浸っていると、今度こそ上司からメールが。僕はスマホを手にして、意気揚々と歩き出す。
「SIMカードのインスタ映え写真はどうした?」
きっと上司に、そう言われるだろう。
そのとき僕は上司に写真を見せて、師匠に言われた大切な言葉を伝えるだろう。
――見せたいものをさりげなく見せて、気づいた人に感動を与えるのが大切だ、と――