Ankerに聞くモバイルバッテリーの疑問と安全な使い方。飛行機持ち込み制限は? 処分するときは?
スマホユーザーにとってもっとも恐ろしいのがバッテリー切れ。充電しようにも外出中はそう都合よく電源が見つかるとは限らないので、モバイルバッテリーを持ち歩く人も増えています。
一方で、モバイルバッテリーが爆発したなんてニュースを目にすることもあり、少し怖いというイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、モバイルバッテリーを製造・販売している会社のAnkerさんに、モバイルバッテリーの仕組みや安全な使い方などについて聞きにいきました。
今回お話を聞いたのは、アンカー・ジャパン株式会社の事業戦略本部 統括の猿渡 歩さん。
そもそもバッテリーって何なの?「PSE」マークって? モバイルバッテリーの素朴な疑問
-そもそもモバイルバッテリーとは、どんな仕組みなのでしょうか。スマホに入っているバッテリーとは違うものなのでしょうか?
猿渡:基本的にはスマホに入っているバッテリーとモバイルバッテリーは同じもので、どちらもリチウムイオンバッテリーというものが使われています。繰り返し充電に使えて比較的安価なので、現在はほぼすべてのスマホやモバイルバッテリーがリチウムイオンバッテリーを採用しています。
―充電といえば、最近はケーブルにつながなくても置くだけで充電できるスマホもありますよね。
猿渡:はい。「Qi」(チー)ですね。
―エッ、キューアイじゃないんですか?
猿渡:いえ、「チー」と読みます。
―......ですよね!
猿渡:「Qi」はケーブルにつながなくても、無接点で充電できる規格で、Androidでは少し前から対応機種が出ていました。最近、iPhoneも対応したことで弊社のワイヤレス充電器も売上が伸びています。
―ところで、ワイヤレスだとケーブルよりも充電が遅くなったりしませんか?
猿渡:以前はそうでしたが、最近は普通のケーブル充電の速度にかなり近づいてきています。ただ、ワイヤレスの場合は充電で熱を持ちやすいため、電力が高くなりすぎると安全機能が働いて充電スピードを落とすことがあります。ですので、総合的にはケーブルの方が早いといえます。一晩寝ている間に充電する、みたいな使い方でしたらワイヤレスで十分フル充電できるのであまり気にしなくても良いですが。
―2019年に法改正があり、モバイルバッテリーに「PSE」マークが必要になったと聞きました。どういうものなのでしょうか?
猿渡:経産省が定める電気用品安全法という法律がありまして、その基準を満たしたものにつけられるのがPSEマークです。モバイルバッテリーはずっと対象ではなかったのですが、粗悪な製品が増えてきたこともあり、きちんとルールを決めましょうということで対象になりました。PSEマークを取得していないモバイルバッテリーは、今年の2月以降は販売できないことになっています。
―ということは、これまでの製品をすべてチェックしないといけないのですか!?
猿渡:実は弊社に関しては法改正の前からずっとPSEの基準を満たした製品を作り続けていましたので、すべての製品でPSEマークは問題なく取得できました。ちょっと紆余曲折はありましたが......。
―紆余曲折?
猿渡:それはちょっと脱線しますので。
―気になって仕方ないのでぜひ聞かせてください!
猿渡:......実は法改正前に一度、せっかく基準を満たしたものを作っているんだからということでPSEマークをつけたことがあったんです。だけど、やはりモバイルバッテリーにはPSEは必要ないわけだから外そうということになり、やっと外し終えたところで......「やはりPSEマークをつけましょう」という法改正が来まして(笑)。
―うわー......それはものすごいタイミングでしたね......。
猿渡:とはいえ、PSEマークは品質を保証する大切な基準ですので、モバイルバッテリーが対象になったことは良いと思います。
- Ankerに聞いたモバイルバッテリーの仕組み
- 中身はリチウムイオンバッテリー
- ワイヤレス充電器の「Qi」の読み方はチー
- 2019年の法改正後はPSEマークが必須
飛行機への持ち込み制限はなぜ? モバイルバッテリー使用の注意点
―モバイルバッテリーといえば使用に関しても注意すべき点があります。たとえば飛行機の持ち込みでも制限がありますよね。
猿渡:電力の低いものでしたら手荷物はOK。100W〜160Wくらいの電力の大きなものは2個までというのが一般的な制限ですね。預け荷物の場合はどんなモバイルバッテリーも一律NGです。何かあったときに対処できませんからね。
―どんな危険性があるのでしょう?
猿渡:リチウムイオンバッテリーは揮発性で引火の可能性があります。エネルギーを持っているものなので、とても強い圧力を加えたりすると発火する危険性はあります。貨物室で発火すると大変ですから、安全のために手荷物でなければ持ち込めなくなっています。私たちも海外から製品を輸入する際、空輸することもあるのですが、大型のものは船で運んでいます。
―船で! 気を遣いますね......。モバイルバッテリーは通常のゴミとしても出せませんが、それも同じ理由ですか?
猿渡:そうですね。通常のゴミで出すことはおすすめできません。
―ではモバイルバッテリーはどうやって捨てればいいのでしょうか?すでに我が家には使わなくなった古いモバイルバッテリーが10個以上あるのですが、捨て方がよくわからないので部屋の隅に積み上げてしまい、祭壇のようになっています。
猿渡:Anker製のものは弊社のカスタマーサポートで回収しているので、一度どこの会社のモバイルバッテリーか確認して、カスタマーサポートに問い合わせるといいですね。
- Ankerに聞いた モバイルバッテリー使用の注意点
- 海外旅行時の飛行機持ち込みは、100W〜160W程度のもの2個まで
- 預け荷物は、引火性があるので一律NG
- Anker製のものはカスタマーサポートまで連絡すると回収の手筈を取ってくれるそう
モバイルバッテリー選び方のポイント! 猿渡さんのおすすめはコレ!
―今日、さっそく祭壇を崩してすべて量販店に持ち込もうと思います。安心したところで、次にモバイルバッテリーの選び方を伺います。ずばり、モバイルバッテリーは何を基準に選べばいいでしょうか?
▲サイズや容量、様々なバリエーションがあるAnkerのモバイルバッテリー
猿渡:やはり容量が最初のポイントですね。売れ筋は10000mAhで、これはスマホをだいたい3〜4回充電できるくらいの容量です。私も普段は10000mAhを持ち歩いています。また、出張などで遠出する場合は20000mAhくらいの大きな容量がおすすめです。これくらいの容量があると、仮に充電できない環境が続いても何とかなります。
―では仮に電気のない山奥に1ヶ月間出張することになったら......?
猿渡:それはモバイルバッテリー以前に別の問題がいろいろあるような気がしますが(笑)、もしそうなったら弊社の「PowerHouse 」をお使いください。かなり大きいのですが、容量は120600mAhあります。
―じゅ、じゅうにまん......!? 山奥への出張以外にどんな人が使うんだろう。
猿渡:災害時などのバックアップ用電源としてご支持いただいています。
―なるほど! たしかに災害時の備えとして良さそうですね。ところで、モバイルバッテリーはたとえば10000mAhというスペックでも、実際に使えるのはもう少し減ると聞いたことがあります。
猿渡:そうですね。エネルギーを変換したりケーブルを通したりするのにロスが生じますので、実際には充電に使える電力は少し減ります。メーカーによっても違いますが、弊社の製品ですとだいたい7割くらいとお考えください。
―つまり、10000mAhだと7000mAhくらいが充電できる量ということですか。ともあれ、まずは目的に合った容量を選ぶべきということですね。次に気にするべきは何でしょう?
猿渡:サイズも気にされるお客様が多いですね。といってもモバイルバッテリーは容量に比例してサイズが大きくなっていきますから、とにかくコンパクトさを優先するなら容量は下げざるを得ません。10000mAhだと手のひらサイズなので、容量対サイズのバランスが良いと思います。また、同じ容量でも握りやすい箱型タイプもあれば、薄型タイプもあります。カバンに入れるのか、ポケットに入れるのかなど、普段のスタイルに合わせて選ぶと良いでしょう。
―モバイルバッテリーというとスマホに使う人が多いと思いますが、PCやタブレットに充電したい場合でも同じものでいいのでしょうか?
猿渡:PCやタブレットはスマホよりも充電に電力を必要とすることが多いので、どれくらいのW(ワット)数が出せるのかを確認してください。特に弊社製品で「PD」と書いてあるものはPower Deliveryに対応しており、PCやタブレットでもお使いいただけます。
また、ポートも重要です。USB-CやUSB-Aなどポートの規格をチェックして、ケーブルに合うポートが搭載されたモバイルバッテリーを選んでください。
―Ankerのモバイルバッテリーでおすすめの製品を教えてください。
猿渡:汎用性が高いのは「PowerCore 10000 PD」ですね。USB-AポートとPD対応のUSB-Cポートがあり、さらにUSB-Cポートはアウトとインの両対応なので、本体の充電にも機器の充電にも使えます。今売れている製品です。
PDポートでなくてよければ、「PowerCore 10000 Redux」が安くてコスパが良い製品です。それから、先ほども申し上げたように、出張などが多い方は「PowerCore II 20000」がおすすめです。
女性だともっと容量の少ない「PowerCore+ mini」も人気です。容量は3350mAhなのでスマホを1回充電できるくらいですが、とにかくコンパクトで軽いので小さめのカバンにも入れやすいです。カラーバリエーションも豊富にそろっています。
- Ankerに聞いた モバイルバッテリーの選び方
- 目的に合った容量とサイズを選ぶ
- Ankerの売れ筋は10000mAh
- PCやタブレットで使う場合は、W数を確認
こんなときどうすれば? モバイルバッテリーのトラブル対処法
―ありがとうございます。ところで、最近は100円均一などでもモバイルバッテリーが売られています(※ 値段は300円〜1000円で売られていることも)が、激安モバイルバッテリーでも問題はないのでしょうか?
猿渡:うーん......正直、100円でモバイルバッテリーを作るのは不可能だと思います。だから、どうやって作っているのかはわかりません。部材や送料だけでも100円は超えますからね。とりあえず、検品していないことは確実だと思います......。やはり通電するものなので、信頼できるメーカーの製品を選んだ方が良いかと思います。
モバイルバッテリーではないですが、ケーブルも安すぎるものは避けたほうが良いですね。すぐ断線してしまうことも多いです。モバイルバッテリーが故障したということでご相談を受けることもあるのですが、そういう場合、私たちの製品ではなく安いケーブルに原因があることが多いのです。
―モバイルバッテリーのトラブルは怖いですよね......。トラブルといえば、よく聞くのは「充電しているとものすごく熱くなってくる」というものです。これは大丈夫なのでしょうか?
猿渡:エネルギーを送るわけですから、温かくなるのは普通です。心配しなくても大丈夫です。ただ、持っていられないくらい熱くなった場合は、使用を一旦やめてメーカーに問い合わせてください。
―他にもニュースで目にするのは「モバイルバッテリーが膨らんでしまう」というトラブルです。
猿渡:タイプにもよるのですが、スマホに入っているような平べったいリチウムイオンバッテリーは経年劣化で膨らむことがあります。これは仕様上、仕方のないことです。膨らんだからといって燃えたりする危険性はないので安心してください。
ただ、使用するのは止めた方がいいですね。膨らむということは使用期限を過ぎているということなので、買い替えた方がいいでしょう。
―爆発したりすることも?
猿渡:基本的にはないですね。よほど特殊な----たとえば高温環境下でダンプカーで踏み潰すなどの衝撃を加えれば燃えるかもしれませんが、通常使用では大丈夫です。
―......たしかにちょっとそんな状況は想像つきませんね。
猿渡:ただ、高いところから落としてしまったりした場合はちょっと注意してください。通常の傷程度ならいいですが、明らかにへこみがあるような場合は使わない方がいいでしょう。その瞬間は大丈夫そうに見えても、次に通電するとトラブルになることが考えられます。
―モバイルバッテリーについての疑問がすべて解消されました! ありがとうございました!
- Ankerに聞いた モバイルバッテリーの疑問
- モバイルバッテリーは信頼できるメーカーの製品を
- 充電中熱くなりすぎたら使用を止める
- 膨らむのはバッテリーの使用期限が過ぎているため
まとめ
スマホに次ぐ生活必需品といっても過言ではないモバイルバッテリーですが、こうしてお話を伺ってみると、いろいろと知らないことがあるんだな〜と実感しました!
モバイルバッテリーの仕組みや選び方、トラブル対処などをしっかり学んで、皆さんもぜひバッテリーに悩まされないスマホライフをお送りください!
文/山田井ユウキ
撮影/岩田えり